作ったデザインを「活かす」ための改善サイクル:小さなビジネス向け 実践編
ブランドデザインは「育てていく」もの
ブランドデザインは、ビジネスの顔であり、顧客との最初のコミュニケーションです。ロゴ、色、フォント、ウェブサイトやSNSのビジュアルなど、様々な要素が組み合わさってブランドイメージを形作ります。
しかし、デザインは一度作成したらそれで完成、というものではありません。ビジネスを取り巻く状況は常に変化しますし、顧客のニーズやトレンドも移り変わります。何よりも、実際にデザインを運用してみなければ、それが顧客にどれだけ響いているのか、どのような効果をもたらしているのかは分かりません。
作ったデザインを最大限に「活かす」ためには、運用しながら効果を測定し、必要に応じて改善を加えていくプロセスが非常に重要です。特に時間や予算が限られる小さなビジネスにとって、この継続的な改善サイクルは、大きなコストをかけずにブランドを強くしていくための鍵となります。
このパートでは、ブランドデザインを運用し、効果測定に基づき改善を加えていくための考え方と、具体的なステップについて解説します。
なぜデザインの「運用と改善」が必要なのか
デザインを継続的に運用し、改善していくことにはいくつかの重要な理由があります。
- 一貫性の維持と強化: ブランドデザインの要素は、様々な媒体(ウェブサイト、SNS、名刺、パッケージなど)で使われます。これらの使用状況を管理し、常に一貫性を保つことで、顧客にブレないブランドイメージを定着させることができます。運用の中で、ガイドラインに沿っていない使用が見つかれば修正が必要です。
- 顧客の変化への対応: 顧客層の拡大、ターゲット顧客の嗜好の変化など、ビジネスを取り巻く状況が変われば、最適なデザインアプローチも変わることがあります。運用を通じて顧客の反応を観察し、必要に応じてデザインを微調整することで、常に顧客に響くブランドであり続けられます。
- 効果の最大化: デザインは単なる飾りではなく、ビジネスの成果に貢献するツールです。ウェブサイトのコンバージョン率向上、SNSでのエンゲージメント増加、問い合わせ件数の増加など、デザインがもたらす効果を測定し、より効果的なデザインへと改善していくことが可能です。
デザイン改善のための「PDCAサイクル」
デザインの運用と改善は、「PDCAサイクル」の考え方を取り入れるとスムーズに進められます。PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返すことで、継続的な品質向上を目指す手法です。これをブランドデザインに当てはめてみましょう。
- Plan(計画): どのようなブランドイメージを目指すか、誰に伝えたいかといった基本的なブランド戦略に基づき、デザインの方向性や具体的な要素(ロゴ、色、フォントなど)を計画・設計します。この段階で、運用後の評価指標についても想定しておくと良いでしょう。
- Do(実行): 計画したデザインを実際に制作し、ウェブサイト、SNS、印刷物などの媒体で展開・運用を開始します。
- Check(評価): 運用を開始したデザインが、当初の目的通りに機能しているか、顧客にどのように受け止められているかを様々な方法で評価します。
- Action(改善): 評価結果に基づき、デザインの課題点を見つけ出し、改善策を計画・実行します。改善後は再びDo(実行)に戻り、デザインを更新して運用を続け、効果をCheck(評価)します。
このサイクルを回すことで、ブランドデザインはより洗練され、ビジネス目標達成に貢献する力強いツールへと成長していきます。
Step1: Check(評価)フェーズ - デザインの効果をどう測るか
PDCAサイクルのC、すなわちCheck(評価)は、改善のための第一歩です。デザインの効果を測定する方法はいくつかあります。小さなビジネスでも取り組みやすい方法をご紹介します。
定量データを見る
数値で客観的にデザインの効果を測ります。
- ウェブサイトのアクセス解析:
- 滞在時間・ページビュー数: 顧客がウェブサイトに長く滞在したり、多くのページを見たりしているか。魅力的なデザインは滞在時間を延ばす傾向があります。
- 離脱率: 特定のページから他のページへ移動せずサイトを離れてしまう割合。デザインが見づらい、構成が分かりにくいといった問題があると離脱率が高くなることがあります。
- コンバージョン率(CVR): 問い合わせ、購入、会員登録など、目標とする行動に至ったユーザーの割合。ボタンの色や配置、ページのレイアウト、商品写真などがCVRに影響します。
- 特定の要素のクリック率: 例えば、ウェブサイトのトップページにあるバナーやボタンのデザインを変えて、クリック率がどう変化するかを確認できます。
- SNSのエンゲージメント:
- いいね、コメント、シェア数: 投稿デザインが魅力的であれば、エンゲージメントが高まる傾向があります。
- プロフィールへのアクセス数: SNSアカウントのデザイン(アイコン、カバー画像)が興味を引き、プロフィールへのアクセスを促しているかを確認します。
- 売上データ: 特定のデザイン変更やキャンペーン実施後に、対象商品の売上がどのように変化したかを確認します。
定性データを見る
顧客の生の声や行動からデザインの受け止められ方を把握します。
- 顧客からのフィードバック: 直接の問い合わせ、メール、レビュー、SNSへのコメントなどで、デザインに関する意見がないか耳を傾けます。「ウェブサイトが見やすい」「商品の写真がきれい」「パッケージがかわいい」といったポジティブな意見も、「ウェブサイトのどこを見れば良いか分からない」「色が目に痛い」といったネガティブな意見も貴重な情報源です。
- SNSでの言及: 顧客が自社のブランド名や商品名に言及している投稿を検索し、デザインに関するコメントを探します。
- 簡単なアンケート: 可能であれば、顧客にウェブサイトや商品デザインに関する簡単なアンケートを実施してみるのも良い方法です。
- ユーザーテスト(簡易版): 知人やモニターにウェブサイトを見てもらい、どこが見やすいか、分かりにくいかなどをフィードバックしてもらう方法です。大がかりなものでなくとも、数人の意見を聞くだけでも多くの気づきが得られます。
A/Bテストなどの手法
デザインの一部変更(例:ボタンの色、キャッチコピーのフォント)による効果を比較したい場合は、A/Bテストが有効です。ウェブサイトの同じページで、デザインが異なるAパターンとBパターンをランダムに表示し、どちらがより高い成果(例:クリック率、CVR)を出すかを比較します。専門的なツールもありますが、WordPressのプラグインや、簡易的なツールでも実施できるものがあります。最初は小さな要素で試してみると良いでしょう。
Step2: Action(改善)フェーズ - 評価結果から改善へつなげる
Check(評価)フェーズで得られたデータやフィードバックを分析し、具体的な改善策を立て、実行するのがActionフェーズです。
課題の特定と優先順位付け
評価結果から、どのデザイン要素に課題があるのかを特定します。例えば、「ウェブサイトの離脱率が高い」という課題に対し、原因が「情報が詰め込みすぎで見づらい」「重要なボタンが見つけにくい」といったデザインの問題にあると推測される場合、改善の対象はレイアウトやボタンデザインになります。
リソースが限られている場合、全ての課題に一度に取り組むのは難しいかもしれません。影響度が大きいと考えられる課題や、比較的少ない労力で改善できそうな課題から優先順位をつけて取り組むことをお勧めします。
具体的な改善策の検討と実行
評価結果に基づいて、具体的なデザインの改善策を検討し、実行します。
- 定量データに基づく改善:
- 「特定ページの離脱率が高い」→ ページの構成を見直し、余白を増やして情報を整理する。重要なコンテンツへの誘導を分かりやすくする。
- 「CTAボタンのクリック率が低い」→ ボタンの色や形、文言を変えて目立たせる。配置場所を変更する。
- 「SNS投稿のエンゲージメントが低い」→ 使用する画像や動画のクオリティを上げる。テキストとビジュアルのバランスを見直す。
- 定性データに基づく改善:
- 「ウェブサイトが見づらいというフィードバックが多い」→ フォントサイズを大きくする、行間を広げる、背景色と文字色のコントラストを強くするなど、可読性を高める改善を行います。
- 「商品の魅力が伝わらないという声がある」→ 商品写真をプロ品質のものに変更する、使用イメージが湧くような写真を追加する、商品の特徴を視覚的に分かりやすく表現する工夫を取り入れる。
小さな改善から始める
デザインの全面的なリニューアルは、時間もコストもかかる上にリスクも伴います。まずは、ウェブサイトのボタンの色を一つ変えてみる、SNS投稿のテンプレートを少し変更してみる、商品写真の撮り方を変えてみる、といった小さな改善から始めてみましょう。小さな変更であれば、リスクも少なく、効果測定もしやすいため、PDCAサイクルを素早く回すことができます。
改善事例(架空のオンラインショップ)
例えば、化粧品を扱う小さなオンラインショップが、ウェブサイトの購入完了率が伸び悩んでいるとします。
- Check(評価): ウェブサイトのアクセス解析を確認したところ、商品詳細ページからの離脱率が高く、購入ボタンがクリックされる回数が少ないことが分かりました。顧客からのフィードバックでは、「購入ボタンが他の情報に紛れて分かりにくい」という意見がありました。
- Action(改善): 評価結果に基づき、購入ボタンのデザインをより目立つ色(ブランドカラーの中で最も視線を引く色)に変更し、サイズを少し大きく、またページのスクロールに合わせてボタンが表示され続けるように改善しました。
- 再度Check(評価): 改善後、1ヶ月間のアクセス解析を確認したところ、商品詳細ページからの離脱率が減少し、購入ボタンのクリック率、そして購入完了率が改善傾向にあることが確認できました。
- 次のPlanへ: 購入ボタンの改善が効果的だったため、次は関連商品の表示方法や、決済ページの分かりやすさなど、他のページの改善計画を立てます。
このように、小さな課題を発見し、改善策を実行し、その効果を測定するというサイクルを繰り返すことで、ウェブサイト全体のパフォーマンスを少しずつ高めていくことができます。
継続的な取り組みがブランドを育てる
ブランドデザインの運用と改善は、一度行えば終わりではなく、継続的な取り組みです。市場や顧客は常に変化していますし、競合の動きも影響します。定期的にデザインの効果をチェックし、必要に応じて柔軟にデザインを更新していくことが、変化の速い現代においてブランドの魅力を維持し、成長させていくために不可欠です。
焦る必要はありません。まずは小さな一歩から。今回ご紹介したPDCAサイクルを意識して、ご自身のビジネスのデザインを「育てていく」という視点を持ってみてください。きっと、デザインがあなたのビジネスの力強い味方となってくれるはずです。