ブランドデザイン戦略入門

使いやすさが顧客体験を決める!小さなビジネスのためのUXデザイン入門

Tags: UXデザイン, ユーザー体験, ウェブサイト, オンラインショップ, 小さなビジネス, 顧客体験, 使いやすさ

ブランド構築における「使いやすさ」の重要性:UXデザインとは

ブランドデザインと聞くと、多くの方はまずロゴやウェブサイトの色、フォントといった「見た目」を想像されるかもしれません。もちろん、これらはブランドイメージを伝える上で非常に大切な要素です。しかし、ブランドはお客様があなたのビジネスに対して抱く「体験全体」によって形作られます。そして、この体験を大きく左右するのが「使いやすさ」、すなわちユーザー体験(UX:User Experience)のデザインです。

特にオンラインでのビジネスにおいては、お客様はウェブサイトやオンラインショップを通じてあなたのブランドと接触します。このとき、サイトが使いにくい、情報が見つけにくい、購入手続きが煩雑だと、お客様はストレスを感じ、結果としてあなたのブランドから離れてしまう可能性があります。逆に、スムーズで心地よい体験を提供できれば、お客様の満足度は高まり、信頼感や愛着へと繋がります。

この記事では、ブランド構築初心者である個人事業主や小規模ビジネスオーナーの皆様に向けて、UXデザインの基本的な考え方から、ご自身のビジネスにすぐに取り入れられる具体的な実践方法までを分かりやすく解説いたします。「デザインは見た目だけではない」という新しい視点を持ち、お客様に選ばれ続けるブランドを育てる第一歩を踏み出しましょう。

UXデザインの基本的な考え方:なぜ今、重要なのか?

UX(ユーザー体験)とUI(ユーザーインターフェース)の違い

UXデザインを理解する上で、しばしば混同されるのがUI(User Interface)です。簡単に言うと、UIは「操作する画面やツール」そのものを指します。ウェブサイトであればボタン、メニュー、画像などの視覚的な要素や配置がUIにあたります。一方、UXは「それを使って得られる体験」全般を指します。ウェブサイトを例にとれば、「このサイトは見やすいか」「目的の情報にすぐにたどり着けるか」「購入プロセスはスムーズか」「利用後にどのような感情を抱くか」といった、サイト利用の開始から終了、さらにはその後の感情や行動までを含めた体験全体がUXです。

優れたUIはUXを向上させるための重要な要素ですが、UIが美しくても、例えばサイトの構造が複雑で購入までのステップが多すぎる場合、UXは損なわれてしまいます。つまり、UIはUXを構成する一部であると言えます。

小さなビジネスにとってUXデザインが重要な理由

予算や時間に限りがある中で、なぜ小さなビジネスこそUXデザインに注力すべきなのでしょうか。その理由はいくつかあります。

  1. オンラインでの第一印象が決定打となるから: お客様があなたのビジネスをオンラインで見つけたとき、そのウェブサイトやオンラインショップは、まさにあなたのビジネスの「顔」です。使いにくいと感じた場合、次の行動(問い合わせや購入)に進む前に、すぐに別のサイトへ移動してしまう可能性が高まります。
  2. 限られたお客様を逃さないために: 大手と比べて母数の少ないお客様一人ひとりを大切にする必要があります。心地よい体験を提供することで、一度来てくれたお客様のリピートに繋がりやすくなります。
  3. 口コミや評価に影響するから: お客様が良い体験をすれば、友人・知人に勧めたり、好意的なレビューを書いたりしてくれる可能性が高まります。逆に悪い体験は、ネガティブな口コミに繋がりかねません。
  4. 業務効率化とコスト削減に繋がるから: よく設計された使いやすいシステムは、お客様からの問い合わせ(「使い方がわからない」「どこで注文できる?」など)を減らし、結果としてサポートコストの削減や、対応時間の短縮に繋がります。

このように、UXデザインは単に「使いやすくする」だけでなく、顧客満足度、リピート率、ブランドイメージ、そして最終的にはビジネスの成長に直結する、まさにブランド戦略の核となる考え方なのです。

実践!初心者でもできるUXデザイン改善のステップ

UXデザインの専門知識がなくても、お客様の視点に立って少し工夫するだけで、使いやすさは格段に向上します。ここでは、すぐに取り組める具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:あなたの「理想のお客様」を具体的にイメージする(簡易ペルソナ設定)

UXデザインの出発点は、誰のためにデザインするのかを知ることです。あなたの製品やサービスを利用するであろう「理想のお客様像」を具体的に想像してみてください。年齢、性別、職業、家族構成といった基本的な情報に加え、彼らがどのような目的であなたのサイトを訪れるのか、どのような課題を解決したいと考えているのか、インターネットやスマートフォンを使う頻度や慣れ具合なども考えてみましょう。

例:地域で採れた野菜を販売するオンラインショップの場合 * ペルソナ像: A子さん、30代、主婦、2児の母、スマートフォンでネットショッピングをすることが多い、安全な食材を求めている、忙しいので簡単に買い物を済ませたい。 * 考えられる体験: 休憩時間や子供が寝た後にスマホでサイトを見る。産地や栽培方法に関する情報を知りたい。買い物の途中で子供に呼ばれる可能性があるので、中断・再開が簡単にできると助かる。支払い方法はクレジットカードや後払い希望。

このように、具体的な人物像と、その人物があなたのサイトを利用するであろう状況をイメージすることで、どんな情報や機能が必要か、どのような流れであれば使いやすいかが見えてきます。専門的な「ペルソナ設定」でなくても、ノートに書き出すだけでも十分です。

ステップ2:お客様の「道のり」をたどってみる(簡易カスタマージャーニー)

理想のお客様が、あなたのビジネスを知ってから、最終的に何らかの行動(購入、問い合わせなど)に至るまでの「道のり」を想像し、その道のりの各段階でどのような体験をするか考えてみましょう。これも専門的な「カスタマージャーニーマップ」を作成する必要はありません。

例:先ほどのオンラインショップでA子さんが「新鮮な野菜を購入する」までの道のり * 認知: SNSであなたのオンラインショップを知る。→ SNS投稿の画像は見やすいか、サイトへのリンクは分かりやすいか。 * 興味・情報収集: サイトを訪れ、どのような野菜があるか見る。→ サイトはすぐに表示されるか、どんな野菜があるか一目でわかるか、検索機能はあるか。 * 比較・検討: 地域の他の直売所やスーパーの野菜と比較する。→ 各野菜の詳細情報(産地、特徴、価格)は見やすいか、他の商品も見やすいか。 * 購入決定: 買いたい野菜を選び、購入手続きに進む。→ カートに入れるボタンは分かりやすいか、カートの中身は確認しやすいか。 * 購入: 住所、支払い情報を入力し、注文を確定する。→ 入力フォームは使いやすいか(入力補助があるか、エラー表示は親切か)、支払い方法は豊富か、注文完了がすぐにわかるか。 * 利用後: 商品を受け取り、食べる。→ 梱包は丁寧か、美味しいか。

このように道のりを考えることで、「お客様がどこで迷いそうか」「どんな情報が欲しいか」といった、改善すべきポイントが見えてきます。

ステップ3:自分で「お客様になって」サイトを体験してみる

実際にステップ1・2で考えたお客様になりきって、ご自身のウェブサイトやオンラインショップを使ってみてください。スマホ、PCなど、お客様が使いそうな様々なデバイスで試すことが重要です。

可能であれば、ご家族や友人にも「お客様になったつもりで」使ってもらい、率直な意見を聞いてみましょう。自分では気づかなかった視点が得られます。

ステップ4:見つけた改善点をリストアップし、優先順位をつける

ステップ3で見つかった「使いにくい点」「分かりにくい点」をすべてリストアップします。そして、それらにお客様への影響度(どれだけ多くの人が困るか、どれだけ重大な問題か)に応じて優先順位をつけます。一度にすべてを改善しようとせず、影響度が大きく、かつ比較的簡単に改善できる点から取り組みましょう。

例: * (高)入力フォームで郵便番号から住所自動入力ができない → 手間がかかる * (高)スマホで見たときに文字が小さく読みにくい → 多くのスマホユーザーが困る * (中)商品詳細ページの説明が少し分かりにくい * (低)特定のページの誤字脱字が一つある

具体的なUXデザインのポイント

ここからは、多くのウェブサイトやオンラインショップで改善できる具体的なポイントをご紹介します。

リソースが限られていてもできる工夫

「デザインの専門家ではないし、予算もない…」と感じている方もご安心ください。リソースが限られた状況でも、UXデザインの考え方を取り入れることは可能です。

UXデザイン改善の事例(架空のケース)

ここに、架空の小さなオンライン雑貨店「プチハピ雑貨」の事例をご紹介します。

【改善前の状況】 ウェブサイトは数年前に作ったきりで、主にPCからのアクセスを想定したデザイン。スマートフォンで見ると、文字が小さく画像も崩れがち。商品を探すメニューは分かりにくい専門用語が多く、特定のカテゴリの商品にたどり着くのに時間がかかる。購入手続きの入力フォームは項目が多く、特に住所入力で間違いが頻発していた。結果として、サイトへの訪問者はいるものの、購入に至らず離脱するお客様が多い状況でした。

【UXデザインの考え方を取り入れて実施した改善】 1. ペルソナ設定: 主な顧客層である「30代〜40代の、日々の暮らしに小さな楽しみを見つけたい女性」をイメージし、その方々がスマホで隙間時間にサイトを見ることを想定しました。 2. 簡易カスタマージャーニー: お客様が「SNSで可愛い雑貨を見つける」→「サイトで商品詳細を見る」→「他の商品も見る」→「購入する」という流れをたどりました。 3. 課題発見: 自分でスマホでサイトを操作したり、友人に見てもらったりして、「スマホでの見づらさ」「メニューの分かりにくさ」「入力フォームの煩雑さ」が大きな課題であることを確認しました。 4. 改善実行(優先順位の高いものから): * ウェブサイトをレスポンシブデザインに対応させ、スマホでも見やすく操作しやすく変更。 * メニューの項目名を、より一般的な、お客様がイメージしやすい言葉に変更。 * 入力フォームの必須項目を見直し、郵便番号からの自動入力を導入。エラー表示も具体的に改善。

【改善後の変化】 これらの改善を行った結果、特にスマートフォンからの購入完了率が向上し、サイト全体の離脱率も減少しました。お客様からは「前よりずっと見やすくなった」「買い物がしやすくなった」といった声が寄せられるようになり、リピート購入のお客様も増えました。デザインの「見た目」は大きく変えていないものの、「使いやすさ」を改善したことで、お客様の体験が向上し、ビジネスの成果に繋がった事例と言えます。

まとめ:使いやすさはブランドの信頼を築く土台

ブランドデザインは、単なる見た目の装飾ではありません。お客様があなたのビジネスと出会い、製品やサービスを利用する「体験」全体をデザインすることです。そして、その体験の質を大きく左右するのが、ウェブサイトやオンラインショップなどの「使いやすさ」、すなわちUXデザインです。

この記事でご紹介したように、UXデザインの実践は、特別な専門知識がなくても、お客様の視点に立って考えることから始められます。ご自身の理想のお客様像を具体的にイメージし、そのお客様がどのような道のりをたどり、どこで困りそうか、どのような体験を求めているかを想像してみてください。そして、実際に自分で、あるいは知人に使ってもらいながら改善点を見つけ、優先順位をつけて、小さな一歩から改善を始めてみましょう。

ウェブサイトのメニューを分かりやすくする、入力フォームをシンプルにする、スマホ対応を徹底するなど、すぐに取り組めることはたくさんあります。これらの使いやすさへの配慮は、お客様にとって「このビジネスは私のことを考えてくれている」「安心して利用できる」という信頼感に繋がります。信頼は、強力なブランドを築く上で欠かせない土台です。

見た目の美しさだけでなく、使いやすさにも心を配ることで、お客様に心地よい体験を提供し、選ばれ続ける強いブランドを育てていきましょう。